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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)1718号 判決

第一、第二事件原告、参加事件当事者被参加人(以下「原告」という。) 林脇林吉

右訴訟代理人弁護士 南部健

同 結城康郎

同 服部弘

同 赤坂俊哉

同 田中森一

同 大原誠三郎

同 境野照彦

第一事件被告、参加事件当事者被参加人(以下「被告」という。) 東京ベッド製造株式会社

右代表者代表取締役 牛丸典三

右訴訟代理人弁護士 岡村勲

同 柘万利子

同 片岡寿

同 北尾哲郎

右岡村勲訴訟復代理人弁護士 朝田啓祐

同 川﨑達夫

同 長﨑俊樹

同 後藤仁哉

同 椙村寛道

第二事件被告、参加事件当事者被参加人(以下「被告」という。) フランスベッド株式会社

右代表者代表取締役 池田実

右訴訟代理人弁護士 岡村勲

同 片岡寿

同 柘万利子

同 北尾哲郎

同 國重愼二

右岡村勲訴訟復代理人弁護士 川﨑達夫

第二事件被告、参加事件当事者被参加人(以下「被告」という。) フランスベッドメディカルサービス株式会社

右代表者代表取締役 池田茂

右訴訟代理人弁護士 佐野洋二

参加事件当事者参加人(以下「参加人」という。) 麻布建物株式会社

右代表者代表取締役 渡辺喜太郎

右訴訟代理人弁護士 早川晴雄

同 伊礼勇吉

同 内田成宣

主文

一、原告の被告東京ベッド製造株式会社に対する各株主総会決議不存在確認の訴えを却下する。

二、原告の被告東京ベッド製造株式会社に対するその余の請求を棄却する。

三、原告の被告フランスベッド株式会社及び被告フランスベッドメディカルサービス株式会社に対する各請求をいずれも棄却する。

四、参加人の請求を棄却する。

五、訴訟費用は、第一、第二事件について生じたものは原告の、参加事件について生じたものは参加人の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

(第一事件)

一、請求の趣旨

1. 原告と被告東京ベッド製造株式会社との間において、原告が被告東京ベッド製造株式会社の株式六一万株を有する株主であることを確認する。

2. 被告東京ベッド製造株式会社の昭和五二年六月三〇日の株主総会における別紙第一目録記載の決議及び昭和五二年八月一日の株主総会における別紙第二目録記載の決議は、いずれも存在しないことを確認する。

3. 訴訟費用は、被告東京ベッド製造株式会社の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

1. 主位的答弁

主文第一、第二及び第五項同旨

2. 予備的答弁

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は、原告の負担とする。

(第二事件)

一、請求の趣旨

1. 原告と被告フランスベッド株式会社及び被告フランスベッドメディカルサービス株式会社との間において、原告が被告東京ベッド製造株式会社の株式六一万株を有する株主であることを確認する。

2. 訴訟費用は、被告フランスベッド株式会社及び被告フランスベッドメディカルサービス株式会社の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

1. 被告フランスベッド株式会社

(一) 本件訴えを却下する。

(二) 主文第五項同旨

2. 被告フランスベッドメディカルサービス株式会社

主文第三、第五項同旨

(参加事件)

一、請求の趣旨

1. 参加人と原告、被告東京ベッド製造株式会社、被告フランスベッド株式会社及びフランスベッドメディカルサービス株式会社との間において、参加人が被告東京ベッド製造株式会社の株式六一万株を有する株主であることを確認する。

2. 訴訟費用は、原告、被告東京ベッド製造株式会社、被告フランスベッド株式会社及び被告フランスベッドメディカルサービス株式会社の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁(原告及び被告ら)

主文第四、五項同旨

第二、当事者の主張

(第一事件)

一、請求原因

1. 原告による被告東京ベッドの株式六一万株の取得

(一)(1) 被告東京ベッド製造株式会社(以下「被告東京ベッド」という。)は、昭和二二年八月三〇日に株式三六〇〇株を、昭和二三年七月一日に株式五万六四〇〇株を発行し、原告は、右各株式(以下「本件(一)株式」という。)をすべて引き受け、その払込をした。

(2) 仮に、本件(一)株式がその後消却されたとしても、原告は、それとは別に、昭和三八年二月九日までに、被告東京ベッドが発行した株式六万株(以下「本件(二)株式」という。)を引き受け、その払込をした。

(二)(1) 原告は、昭和二三年四月一日、株式会社秀工社(以下「秀工社」という。)が発行した株式三六〇〇株(以下「本件(三)株式」という。)を引き受け、その払込をした。

(2) 秀工社は、昭和四三年二月二八日、被告東京ベッドに吸収合併されたが、その際、同被告は、一万株の新株(以下「本件(四)株式」という。)を発行し、その全部を原告において引き受けた。

(三) 原告は、右(一)、(二)の株式七万株のほか、昭和三八年二月九日までに、被告東京ベッドが発行した株式五四万株(以下「本件(五)株式」という。)を引き受け、その払込をした。

2. 確認の利益の存在

しかし、被告東京ベッドは、原告が右株式六一万株を保有していることを争っている。

3. 株主総会決議の不存在

(一) 被告東京ベッドは、昭和五二年六月三〇日及び同年八月一日に同被告の各株主総会(以下「本件各株主総会」という。)が開催され、同総会においてそれぞれ別紙第一及び第二目録記載の各決議がなされたと主張している(両決議を、以下「本件各決議」という。)。

(二) しかし、本件各決議は、被告東京ベッドの全株式六一万株を有する原告を排除してなされたものであるから、不存在である。

4. よって、原告は、次の裁判を求める。

(一) 原告と被告東京ベッドとの間で、原告が同被告の全株式六一万株を有する株主であることを確認する裁判

(二) 本件各決議が不存在であることを確認する裁判

二、請求原因に対する認否

1. 請求原因1、2及び3(一)の各事実は認める。

2. 請求原因3(二)は争う。本件各決議は、被告東京ベッドの全株式六一万株を有していたフランスベッド販売株式会社(以下「フランスベッド販売」という。)が出席した本件各株主総会において、適法になされたものである。

三、抗弁

1. 請求原因1(一)(1)に対する抗弁(株式の消却又は譲渡)

(一) 原告が保有していた本件(一)株式合計六万株は、昭和三八年五月一一日に減資により消却され、株券は、株主である原告から被告東京ベッドの代表者たる原告に交付された上、失効の手続(商法二一一条)がなされた。

仮に、右の時点で失効手続がなされなかったとしても、被告東京ベッドは、昭和四四年三月三一日、当時の発行済株式六一万株すべてにつき、これを表章する株券を発行して、被告フランスベッド株式会社(以下「被告フランスベッド」という。)に交付したことにより、既発行株券についての失効手続を完了した。

(二) 仮に、そうでないとしても、

(1) 原告は、昭和四三年一〇月三一日、被告フランスベッドに対し、本件(一)株式を譲渡した。

(2)① 右株式については、当時なお株券が発行されておらず、株式が発行された昭和二二、二三年から右譲渡時までに、株券発行に必要な合理的期間が既に経過していたから、意思表示のみによる譲渡も有効である。

② 仮に、右譲渡当時、右株式につき株券が発行されていたとしても、原告は、被告フランスベッドに対し、株券は未発行である旨述べて株券を交付しなかったのであるから、現時点において、株券の発行があったことを主張することは、信義則上ないし禁反言の法理上許されない。

2. 請求原因1(一)(2)、1(二)(2)、1(三)に対する抗弁(株式の譲渡)

(一) 原告は、昭和四三年一〇月三一日、被告フランスベッドに対し、本件(二)株式六万株、本件(四)株式一万株、本件(五)株式五四万株合計六一万株(以下「本件各株式」という。)をそれぞれ次の経緯で譲渡した。

被告東京ベッドは、昭和四二年ころから急激に業績及び資金繰りが悪化したため、代表取締役であった原告は、同年一一月ころ被告フランスベッドの代表者池田実に融資を要請するようになった。原告の右要請に応じて、当初は、池田個人が融資していたが、融資額が多額になってきたため、池田個人では対応し切れなくなり、同年一二月からは、被告フランスベッド及びその関連会社のフランスベッド販売が、被告東京ベッドの製造部門であった秀工社の所有する世田谷区池尻の土地などを担保として、被告東京ベッドに対し融資を行い、昭和四三年二月までの右融資額は、合計約二億円に達した。しかし、被告東京ベッドは、右借入金を返済する目途が立たなかったため、秀工社を吸収合併した上、昭和四三年三月四日、世田谷区池尻の前記土地を二億円でフランスベッド販売に売り渡し、右代金債権と前記借入金債務とを対当額で相殺した。しかし、その後も被告東京ベッドの被告フランスベッド及びフランスベッド販売からの借入れは続き、この間、原告は、被告フランスベッドに対し、被告東京ベッドの窮状を訴え、その経営をすべて引き受けて整理、再建して欲しい旨申し入れた。被告フランスベッドは、被告東京ベッドの負債額が多すぎたため、いったんこれを断ったが、原告は、再三にわたり、原告の有する不動産及び被告東京ベッドの株式の一切を提供するので、被告フランスベッドにおいて経営を引き受け、倒産を防いで欲しい旨懇願した。被告フランスベッドとしては、このような融資を重ねることは、不良債権を増大させる結果となりできることではなく、さりとて一度同被告を倒産させて清算した上新会社を設立することも、原告の希望に沿うものではなかった。結局、被告東京ベッドを存続させ、再建するためには、同社を被告フランスベッドが丸抱えにして引き受け、原告の個人資産の活用を図るほかはないとの結論に達した。そこで、被告フランスベッドは、昭和四三年六月二一日、原告夫妻と被告東京ベッドの再建について話し合った結果、被告フランスベッドから被告東京ベッドへの役員の派遣、原告の被告東京ベッド代表取締役辞任、原告の有する被告東京ベッドの全株式たる本件各株式六一万株の被告フランスベッド側への譲渡、原告の個人資産の処分などにつき一応の合意に達し、その際、原告は、依頼書(乙第一号証)、確約書(乙第五、六号証)を作成して被告フランスベッドに交付した。ただし、当日は、株式の売却代金、譲受名義人などは決められず、後日検討が加えられた結果、売却代金は一株二四円(合計一四六四万円)、名目的な譲受名義人は池田高(池田実の実弟)ほか一一名とすることが決められ、昭和四三年一〇月三一日、右代金が被告フランスベッドから原告に支払われるとともに、本件各株式六一万株が同被告に対し譲渡されたのである。

(二) 本件各株式については、いずれも株券が発行されておらず、株式発行時から右譲渡時までに、株券発行に必要な合理的期間が経過していたから、意思表示のみによる譲渡も有効である。

(三) 被告フランスベッドは、昭和四八年一一月三〇日、本件各株式をフランスベッド販売に譲渡した。

(四) フランスベッド販売は、昭和六二年四月二日、被告フランスベッドメディカルサービス株式会社(以下「被告メディカルサービス」という。)に合併された。

四、抗弁に対する認否

1.(一) 抗弁1(一)の事実のうち、昭和三八年五月一一日に被告東京ベッドの株式六万株が消却されたことは認めるが、それが本件(一)株式であることは否認する。消却されたのは別の株式である。

(二)(1) 抗弁1(二)(1)の事実は否認する。

(2)① 抗弁1(二)(2)①の事実は否認する。株券は発行されていたのである。なお、法律上の主張は争う。

② 抗弁1(二)(2)②の事実は否認し、法律上の主張は争う。

2.(一) 抗弁2(一)の事実は否認する。

被告東京ベッドは、昭和三八年ころアメリカのシモンズベッドとの業務提携を行ったが、一年ほどで失敗し、更に昭和四〇年一一月に原因不明の火災により本社社屋・製造工場が焼失したことなどにより、一時的にその経営が苦しくなった。昭和四二年当時、同被告の製造部門であった秀工社(株主は原告一人)は、世田谷区池尻所在の土地建物(時価約三億円)を所有していた上、原告も港区六本木三、四丁目に土地建物(時価一〇億円以上)を有していたので、これらの資産を担保にすれば、莫大な借入れをすることが可能であったが、当時赤字会社に対しては銀行融資をしてはならないとの大蔵省の通達があったため、銀行からの融資を受けることができなかった。そこで、原告は、やむを得ず、昭和四二年九月ころ、親交のあった池田実に対し、被告フランスベッドによる被告東京ベッドの再建を依頼し、交渉を重ねた結果、昭和四二年一二月六日、原告と被告フランスベッドとの間で、原告所有の不動産を担保提供することによる被告フランスベッドからの融資、原告の被告東京ベッド代表取締役からの一時辞任、被告東京ベッドの不良社員の整理と経営指導名目での被告フランスベッドからの役員の一時出向、被告東京ベッド再建後の原告の代表取締役への復帰、同被告再建後の池田に対する相応の謝礼などを内容とする合意が成立した。右合意に従い、原告は、同月九日、秀工社の所有していた池尻の土地をフランスベッド販売に譲渡し、さらに、原告所有の港区六本木三、四丁目の不動産及び原告の妻林脇フク所有の港区西麻布四丁目の不動産に担保権を設定するなどしたため、被告フランスベッドは、被告東京ベッドに対し、再建のための資金援助を継続してきたのである。また、昭和四三年二月までのフランスベッド販売から被告東京ベッドへの融資額が二億円に達したというのは、事実に反するものであり、これは秀工社の土地の売買代金を分割して支払っていたにすぎない。昭和四三年六月二一日、原告とフクが被告フランスベッドの本社に赴いたのは、同被告に対する担保提供額が融資額に比してあまりにも増大し過ぎたため、フク名義の不動産に対する抵当権の解除を求めるためであった。その席上、被告フランスベッド側から、再建のために必要な書類であるから署名押印してほしいといわれ、乙第一号証を出されたので、原告らはいわれるままに内容もよく確認しないで署名押印したにすぎない。原告は、自己所有の被告東京ベッドの全株式六一万株を譲渡するなど考えたこともなく、右当日、そのような話は一切出なかった。原告と被告フランスベッドの間でなされた合意の内容は前記の諸点に尽きるのであり、株式の譲渡について合意がなされたことは全くない。昭和四三年六月当時の被告フランスベッドに対する被告東京ベッドの負債額はせいぜい六九〇〇万円程度であって、また、前記のとおり、原告は十分担保余力のある資産を有していたのであるから、原告が株式全部を譲渡して被告東京ベッドの経営を引き受けてもらわなければならないような窮状にあったはずがない。しかも、当時被告フランスベッドが被告東京ベッドの全株式を取得することは、寝具業界でのシェアの八〇パーセントを支配することになり、独占禁止法上も許されていなかったのであるから、株式の譲渡がなかったことは明らかである。

(二) 抗弁2(二)の事実のうち、本件各株式六一万株について株券が発行されていなかったことを認め、法律上の主張は争う。

(三) 抗弁2(三)の事実は知らない。

(四) 抗弁2(四)の事実は認める。

五、再抗弁(抗弁2(一)に対するもの)

被告東京ベッドの株式六一万株の譲渡のうち、本件(四)株式一万株の譲渡は無効である。すなわち、右株式は、被告東京ベッドが秀工社を吸収合併する際に発行したものであるが、右合併当時、秀工社は、その全株式三六〇〇株について株券(甲第三号証の一ないし七二)を発行していたのであり、その株券は、被告東京ベッドの株券が発行されるまでは本件(四)株式を表章する株券としての効力を有すると解すべきである。ところが、右株式の譲渡については、右株券が交付されていないのであるから無効である。

六、再抗弁に対する認否

再抗弁のうち、本件(四)株式について株券が交付されなかったことは認めるが、秀工社が株券を発行していたことは知らない。なお、法律上の主張は争う。

七、再々抗弁

1. 秀工社が合併当時株券を発行していたとしても、その株券は、本件(四)株式の発行に際し、原告が被告東京ベッドの代表取締役として、株主である原告自身から回収し、失効手続をとるため所持していたものである。原告は、昭和四三年一〇月三一日、被告フランスベッドに対し、右株式を含む本件各株式を譲渡したが、株券は未発行のままであったので、被告東京ベッドは、昭和四四年三月三一日、被告フランスベッドに対し、本件各株式の株券を発行し交付した。この交付は、秀工社の株式の株券についての失効手続であるから、現存する秀工社の株式の株券は、本件(四)株式の株券としての効力を有しない。

2. 仮に、そうでないとしても、原告は、本件(四)株式を譲渡するに当たり、被告フランスベッドに対し、右株式の株券は未発行である旨述べて秀工社の株式の株券を交付しなかったのであるから、現時点において、株券の発行があったことを主張することは、信義則上ないし禁反言の法理上許されない。

八、再々抗弁に対する認否

再々抗弁1及び2の各事実は否認し、法律上の主張は争う。

(第二事件)

一、請求原因

1. 第一事件の請求原因1(一)ないし(三)と同旨。

2. 被告フランスベッド及び被告メディカルサービスは、被告東京ベッドの全株式六一万株である本件各株式の株主が被告メディカルサービスであると主張して、原告が右株式の株主であることを争っている。

3. よって、原告は、原告と被告フランスベッド及び被告メディカルサービスとの間で、原告が被告東京ベッドの全株式六一万株を有する株主であることの確認を求める。

二、被告フランスベッドの本案前の主張

被告フランスベッドは、昭和四八年一一月三〇日、その有する本件各株式をフランスベッド販売に譲渡したものであって、同被告が現在株式を有する旨の主張は一切していない。したがって、原告は、被告フランスベッドに対する関係では確認の利益を有していないから、同被告に対する本件訴えは、不適法として却下を免れない。

三、請求原因に対する認否

請求原因事実はいずれも認める。

四、抗弁(請求原因1に対するもの)、抗弁に対する認否、再抗弁(抗弁2に対するもの)、再抗弁に対する認否、再々抗弁及び再々抗弁に対する認否は、それぞれ第一事件におけるそれらと同旨である。

(参加事件)

一、請求原因

1. 参加人は、昭和五九年一二月二四日、原告からその保有する被告東京ベッドの全株式六一万株である本件各株式を代金五億円で譲り受け、かつ、そのうち六万三六〇〇株を表章する株券(丙第三号証の二ないし一二七三)の引渡しを受けた。本件各株式のうちその余の株式については、株券が発行されておらず、株券発行に必要な合理的期間が経過していたから、意思表示のみによる株式譲渡も有効である。

2. しかるに、原告は、被告東京ベッド、被告フランスベッド及び被告メディカルサービスに対し、原告が本件各株式を有する株主であることを主張して第一、第二事件の各訴えを提起し、被告らは、これに対し、被告メディカルサービスが本件各株式を有するとして争っている。

3. よって、参加人は、原告、被告東京ベッド、被告フランスベッド及び被告メディカルサービスとの間で、参加人が本件各株式を有する株主であることの確認を求める。

二、請求原因に対する認否

1. 原告

(一) 請求原因1の事実のうち、原告が昭和五九年一二月二四日当時本件各株式を保有していたこと、原告が六万三六〇〇株を表章する株券を参加人に交付したことは認め、その余は否認する。

(二) 請求原因2の事実は認める。

2. 被告ら

(一) 請求原因1の事実のうち、原告が昭和五九年一二月二四日当時、本件各株式を保有していたことは否認し、その余は知らない。原告は、昭和四三年一〇月三一日、本件各株式をすべて被告フランスベッドに譲渡したものである。

(二) 請求原因2の事実は認める。

三、抗弁

1. 原告

(一) 虚偽表示

参加人と原告は、本件各株式について請求原因記載の売買契約を締結する際、いずれも右株式を売買する意思がないのに、その意思があるかのように仮装することを合意したものであるから、右売買契約は、虚偽表示により無効である。

すなわち、原告は、昭和五八年ころ、参加人代表者渡辺喜太郎と知り合い、同人に対し、原告所有の港区六本木所在の土地の所有権につき被告フランスベッドと係争中である旨話したところ、同人は、裁判に協力するから、右土地が原告所有と認められたときには、これを参加人に売却するよう申し入れ、原告もこれに応じ、昭和五九年一二月二四日、右土地の売買契約を締結することになった。ところが、原告は、当日、契約書の表題が「不動産及び株式売買契約書」とされていることに気づき、渡辺に問いただしたところ、同人は、裁判のためには被告東京ベッドの株式についても原告と協力関係に立つ必要があるから、便宜上契約書にそのように書いただけである旨返答したので、原告もこれを信じて契約書に署名した。その後、裁判について協議をした際、渡辺は、原告に対し、株券を持ってくるように要求し、原告は、法廷に株券を運ぶために株券が必要なのだろうと考え、株券を参加人に引き渡したのである。

(二) 詐欺(予備的主張)

(1) 参加人は、本件各株式を買い取るつもりであったにもかかわらず、前記(一)のとおり本件各株式が裁判に必要である旨告げて原告を欺き、その旨誤信させた上、右売買契約を締結させた。

(2) 原告は、参加人に対し、平成元年二月二日、詐欺を理由に契約における売却の意思表示を取り消す旨の意思表示をした。

(三) 錯誤(予備的主張)

原告は、右契約を締結する際、それが単に前記裁判を有利に導くための仮装であると誤信していたのであるから、右契約は、要素の錯誤により無効である。

2. 被告ら

(一) 被告メディカルサービスは、平成二年二月三日、参加人から前記一1の株券すべての交付を受け、現にこれを所持している。

(二) 仮に、これらの株券が、被告東京ベッドの株式を表章する場合には、右交付は、当該株式の譲渡として行われたものというべきである。

四、抗弁に対する認否

1. 抗弁1に対する認否

(一) 抗弁1(一)の事実は否認し、虚偽表示である旨の主張は争う。

(二) 抗弁1(二)(1)の事実は否認するが、同1(二)(2)の事実は認める。

(三) 抗弁1(三)の事実は否認し、要素の錯誤である旨の主張は争う。

2. 抗弁2に対する認否

抗弁2の事実は、いずれも認める。

第三、証拠〈省略〉

理由

第一、第一事件について

一、請求原因1の各事実(原告が被告東京ベッドの全株式六一万株を取得した事実)は、当事者間に争いがなく、また、同2の事実(確認の利益の存在)は、弁論の全趣旨により認めることができる。

二、そこで、抗弁について判断する。

1. まず、抗弁2(一)(被告フランスベッドに対する株式六一万株の譲渡)について検討する。

(一)  〈証拠〉を総合すれば、以下の事実を認めることができる(右事実中には、一部当事者間に争いない事実も含まれる。)。

(1) 被告東京ベッドは、昭和二二年七月八日、資本金一八万円、発行済株式数三六〇〇株で設立され(当時の商号は「株式会社林脇工業所」で、昭和三六年八月一日に現商号に変更。)、何回かの増・減資を経て、昭和四三年二月二八日には、資本金三〇五〇万円、発行済株式数六一万株となった。増・減資の経過は、次のとおりである。

昭和二三年四月一〇日 三〇〇万円に増資(新株五万六四〇〇株発行、発行済株式数六万株)

昭和三八年一月一四日 一二〇〇万円に増資(新株一八万株発行、発行済株式数二四万株)

同年一月一六日 四八〇〇万円に増資(新株七二万株発行、発行済株式数九六万株)

同年二月九日 一億二〇〇〇万円に増資(新株一四四万株発行、発行済株式数二四〇万株)

同年五月一一日 一億円に減資(四〇万株消却、発行済株式数二〇〇万株)

昭和四一年五月五日 三〇〇〇万円に減資(一四〇万株消却、発行済株式数六〇万株)

昭和四三年二月二八日 三〇五〇万円に増資(新株一万株発行、発行済株式数六一万株)

(2) 原告は、被告東京ベッドの設立時から同被告の発行済株式すべてを保有する(原告以外の名義人は、すべて名目的なもの)とともに、昭和四三年七月一日まで同被告の代表取締役(同年一〇月二六日まで同取締役)の地位にあった。

(3) 被告東京ベッドは、昭和三八年ころ、アメリカ企業のシモンズベッドとの合弁会社を設立したが、経営に関する意見の対立から一年足らずで合弁契約を解消せざるを得なくなり、また、昭和四〇年一一月には火災により本社社屋及び製造工場が焼失し、主力製造部門を失ったことなどにより、業績及び資金繰りが悪化の一途をたどり、第二一決算期(昭和四二年一月一日から同年一二月三一日まで)には、約一億三七八二万余円の当期損失を計上し、長短借入金も三億八四〇〇万円以上に上るに至った。原告は、当時個人資産として港区六本木三、四丁目などに相当の土地・建物を所有していたが、それらにも既に限度一杯に担保権が設定されていて、新たに担保権を設定して金融機関から融資を受けることが極めて困難な状況にあった。

(4) このため、原告は、昭和四二年九月ころから、被告東京ベッドが加盟していた日本ベッド工業会の会長で被告フランスベッドの代表者でもあった池田実に対し、融資を依頼するようになった。当初は、池田個人が右依頼に応じて被告東京ベッドに対し二度にわたり一〇〇〇万円及び二〇〇〇万円を融資していたが、右二〇〇〇万円が返済されないうちに新たに三〇〇〇万円の融資を求められるに及び、かような多額の融資を池田個人が、しかも無担保で行うことには問題があるとして、同年一二月一日からは、被告フランスベッド又は同被告の関連会社であるフランスベッド販売が融資することになった。以後、被告東京ベッドに対する右二社からの融資は、昭和四三年三月一日までに一一回にわたり合計二億三六九一万七〇〇〇円に至るまで行われ、昭和四三年三月末日現在における融資残高は、約二億円にまで増加した。このうち被告フランスベッドからの融資額は、昭和四二年一二月一日及び六日の各三〇〇〇万円であったが、間もなくフランスベッド販売が肩代りし、債権は同社にまとめられた。

被告東京ベッドは、昭和四三年一月一一日、右融資を受けるための担保として、フランスベッド販売のために、同被告の製造部門たる子会社であった秀工社(資本金一八万円、発行済株式数三六〇〇株で、株主は原告一人。)所有の東京都世田谷区池尻三丁目所在の土地に、二億円を極度額とする根抵当権を設定したほか、原告の妻林脇フク所有の港区西麻布四丁目の土地・建物にも抵当権を設定した。しかし、被告東京ベッドは、前記融資の返済の見込みが立たないため、秀工社所有の前記池尻の土地をフランスベッド販売に売却してその代金を返済に充てることにし、まず、昭和四三年二月二八日、秀工社を被告東京ベッドに吸収合併して(その際、同被告は一万株の新株を発行。)、土地の所有名義を同被告に変更した後、同年三月四日、これをフランスベッド販売に売却した。その際、売却代金二億円は、ほぼ全額が前記融資額と相殺されたため、被告東京ベッドのフランスベッド販売に対する債務は、一時ほとんど消滅した。

(5) ところが、被告東京ベッドは、これ以後も被告フランスベッドに融資を要請し、昭和四三年四月一八日、ベッド製造工場として取得した千葉県野田市所在の工場の取得代金二〇二八万四〇〇〇円を被告フランスベッドから借り受けたほか、同年六月六日には、原告所有のビル建築のため伊藤忠商事株式会社から借り入れた四五〇〇万円の返済の目途が立たず、被告フランスベッドにその肩代わりをしてもらうなどして同被告に対する債務が再び増加し、同月六日現在の被告フランスベッドに対する債務は、約一億一四〇〇万円となっていた(その担保は、原告所有の港区六本木の不動産やフク所有の不動産など。)。また、この時点における被告東京ベッドの債務総額は、約四億七〇〇〇万円に達した。なお、原告自身も右債務の一部を保証していたほか、被告東京ベッドに対し、約二億円の債務を負っていた。

(6) この間、原告は、被告フランスベッドに対し、被告東京ベッドの窮状を訴え、その経営をすべて引き受けて整理再建してもらいたい旨申し入れていたが、被告フランスベッドは、被告東京ベッドの資産負債の状態が不良なためこれを断っていた。しかし、昭和四三年六月に入り、前記(5)のとおり同被告の資金繰りが一段と悪化したため、原告は、その有する不動産及び被告東京ベッドの株式の一切を提供するので、何とか被告フランスベッドにおいて経営を引き受け、倒産を防いで欲しいと同被告に対し重ねて懇請した。そこで、被告フランスベッドは、被告東京ベッドの負債状況、再建の可能性などにつき再度調査した後、昭和四三年六月二一日、原告夫妻を本社に呼んで話し合った。その結果、右当事者間において、①被告フランスベッドは、被告東京ベッドに対し代表取締役その他の役員を派遣して、経営を行うこと、②原告は、被告東京ベッドの代表取締役を辞任するが、会長として毎月二〇万円ないし三〇万円の生活費の支給を受けること、③原告は、その保有する被告東京ベッドの全株式たる本件各株式(六一万株)を被告フランスベッドに対し譲渡すること、④原告は、その所有の港区六本木所在の不動産につき、被告フランスベッドがどのように処分しても異議を述べないこと、⑤被告フランスベッドは、林脇フク所有の不動産につき設定している抵当権を放棄してその設定登記を抹消し、原告所有の不動産に追加担保の設定を受けることを主な内容として被告フランスベッド及びフランスベッド販売が被告東京ベッドの整理・再建に当たる旨の合意に達するに至った。原告は、右の事項に関する依頼書(乙第一号証)、確約書(乙第五、六号証)を作成して、被告フランスベッドに交付した(ただし、前記①、②については書面化されていない。)。ただし、この時点では、株式の譲受名義人、株式の譲渡代金については、明確に定められていなかった。その際、フクが被告東京ベッドが再建できたら不動産と株式を返して欲しい旨の要請をしたけれども、被告フランスベッドの副社長山田博康は、これを拒絶し、原告らもその点を了承した上で右の各書面を作成した。また、翌日には、原告は、株式譲渡書(乙第四号証の一ないし一九)を作成して、被告フランスベッドに交付した。

(7) 同月二二日、右合意に従い、被告フランスベッドから代表取締役として小町谷二郎が、経理担当取締役として山口逸穂が、それぞれ被告東京ベッドに派遣され、原告は、同年七月一日、代表取締役を辞任した。

(8) その後、原告と被告フランスベッドの間において、本件各株式の売却代金は、一株当たり二四円、合計一四六四万円と定められ、昭和四三年一〇月三一日、右代金は、被告フランスベッドから原告の銀行口座に振り込まれた。翌日、その全額が原告の被告東京ベッドに対する債務の返済に充てられた。右株式の買受名義人については、公正取引委員会から被告フランスベッドが買受人になるのでは同被告のシェアが増加し、独占禁止法上問題があるとの指摘があったため、当時フランスベッド販売の役員であった池田高ほか個人一一名が名義人とされたが、実際の譲受人は、被告フランスベッドであった。

(9) 原告所有の港区六本木三、四丁目所在の不動産は、被告東京ベッドが昭和四三年一二月一六日に二億一五七八万二〇〇〇円で原告から買い受けたが、右代金は、手付金五〇〇万円を除くほか、被告東京ベッドに対する原告の債務と相殺された。右不動産は、被告東京ベッドの使用建物部分など一部を除き、昭和四四年一月二五日、被告東京ベッドからフランスベッド販売に売却され、同年二月一七日に原告からフランスベッド販売に対し直接所有権移転登記手続がされた。

(10) 原告は、本件各株式及び六本木の不動産の譲渡につき、昭和五〇年ころに至るまで全く異議を申し立てたことはなく、かえって、東京地方裁判所昭和四三年(モ)第七六五四号仮処分異議事件(債権者被告東京ベッド、債務者藤山義忠)の証人尋問において、原告が右不動産を被告東京ベッドに譲渡した旨を積極的に述べているほか、被告フランスベッドに対し右土地の所有権移転登記等抹消登記手続請求訴訟を提起した昭和五一年以降においても、本件各株式の譲渡及び取締役辞任などの事実を認めた上で、被告東京ベッドに対し、前記(6)②の生活費の支払請求訴訟を提起していた(東京地方裁判所昭和五一年(ワ)第二四五三号契約金請求事件)。

〈証拠判断省略〉。

(二)  ところで、原告は、昭和四二年一二月六日、原告の不動産を担保提供することによる被告フランスベッドからの融資、原告の被告東京ベッド代表取締役の辞任、被告フランスベッドからの役員の一時出向、同被告による被告東京ベッド再建後の原告の代表取締役への復帰等を内容とする合意が成立し、右合意に基づき秀工社の土地が同月九日に売却され、以後の被告フランスベッド及びフランスベッド販売からの援助はすべて右合意に基づいて行われたものであり、それ以上に、原告が被告東京ベッドの株式を譲渡する旨の合意はなかったと主張し、その証拠として甲第二一、第二八号証を援用する。

〈証拠〉によれば、昭和四二年一二月六日当時、原告と被告フランスベッドとの間で、右文書記載の内容につき合意が成立したことを認めることができる。しかしながら、右文書の文言のみからは、原告主張の内容が合意されたことを認めるのは困難であるばかりでなく、仮に、原告の主張どおりの合意がなされたとすれば、それは、被告フランスベッドにとって何ら利益の存しないものであって、同被告がかかる合意をするだけの合理性に欠けるというべきである。

また、甲第二一号証(秀工社の土地の売買契約書)も、成立に争いがなく、これには、契約年月日につき原告の主張に沿う記載があるけれども、他方、成立に争いのない乙第五二号証によれば、右土地については、昭和四二年一二月二七日付で、フランスベッド販売を権利者として、同月一三日付売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記がされたが、右仮登記は、昭和四三年一月一一日、錯誤により抹消された上、同日付でフランスベッド販売を権利者とし極度額を二億円とする根抵当権設定仮登記がされていることが認められる。これに加え、売買代金であるならば、それが前記認定のとおり分割して被告東京ベッドに支払われていることは不自然であるのみならず、原告本人尋問の結果によれば、被告東京ベッドから右金員に対する利息が支払われていることが認められる。以上の諸点に照らすと、右契約の実質は、売買契約でなく、一種の担保権設定契約にすぎないものといわざるを得ない。また、他に原告主張の合意がなされたことを認めるに足りる証拠もない。

(三)  以上によれば、原告は、昭和四三年一〇月三一日、被告フランスベッドに対し、その保有する本件各株式を譲渡したものと認めるほかない。そして、後記2で述べるとおり、本件(一)株式は、昭和三八年五月一一日に消却され、他方、原告が請求原因1(一)(2)において予備的に主張する本件(二)株式六万株の取得の事実は当事者間に争いがないから、結局、原告は、本件(二)、(四)及び(五)の各株式合計六一万株を譲渡したものと認められる。

2. 抗弁1(一)(株式六万株の消却)について

(一)  被告フランスベッドに譲渡された六一万株の中に、本件(一)株式六万株が含まれていたか否かについて、被告東京ベッドは、本件(一)株式六万株は、昭和三八年五月一一日、減資のために消却されたと主張し、原告は、株券の存在を理由として、消却されたのは、右株式とは別個の株式であると主張するので、この点につき検討する。

昭和三八年五月一一日、被告東京ベッドの資本の額が一億二〇〇〇万円から一億円に減少し、発行済株式も二四〇万株から二〇〇万株に減少したことは前認定のとおりであり、右減資が株式の消却によるものであったことは、当事者間に争いがない。ところで、原告が本件(一)株式の株券として提出した甲第一号証の一ないし七二及び甲第二号証の一ないし一一二八の成立について、被告東京ベッドはこれを否認するが、右文書に右六万株発行当時の税務署の印紙税納付済印(この部分の成立については弁論の全趣旨により認められる。)が押捺されていること及び原告本人尋問の結果に照らせば、右文書は、本件(一)株式についての真正な株券と認めることができ、それが減資後も廃棄されずに存在している以上、右六万株は消却の対象にならなかったと考えられなくもない。しかし、証人佐原節男の証言によれば、原告は、昭和四三年六月二一日、被告フランスベッドとの間で本件各株式六一万株の譲渡について合意した際、同被告に対し、株券は発行されていない旨告げたことが認められる上、その当時原告が作成し被告フランスベッドに差し入れた株式譲渡書(乙第四号証の一ないし一九。)にも、株券は発行されていない旨の記載があることが認められる。また、本件、(一)株式は、昭和二二年八月三〇日及び昭和二三年七月三〇日に発行されたものであるのに、成立に争いのない乙第一四八号証及び弁論の全趣旨によれば、被告東京ベッドは、昭和四三年度の税務申告の際、右六一万株の取得時期を昭和三八年四月及び昭和四三年二月と記載した譲渡所得計算明細書(乙第一四六号証の一ないし三)を税務署に提出したこと、右取得時期は山口逸穂が原告の説明を聞いて記載したものであることが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。以上の各事実を総合すれば、本件(一)株式は、昭和三八年五月一一日、減資のために消却されたものと推認するのが相当である。もっとも、これに対しては、減資のために株式の任意消却が行われる場合(被告東京ベッドは、前述のとおり原告の一人会社であったから、強制消却をすることは考えられない。)には、会社は株主から取得した自己株式につき遅滞なく失効の手続をとる必要があり(商法二一一条)、右手続をしない限り株式は消滅しないと解されるところ、原告は、減資後も前記株券を廃棄せずに所持していたのであるから、右六万株については未だ失効手続が行われておらず、したがって、右株券も有効ではないかとの疑問がないではない。しかし、商法二一一条にいう株式の失効手続には、会社において消却のため取得した株式の株券を消却すべきものとして特定する何らかの行為をすることで足り、株券を物理的に廃棄することは必ずしも不可欠なことではないと解すべきである。本件において、原告が右減資当時被告東京ベッドの唯一の株主であり、かつ、代表取締役であったことに照らせば、原告は、減資を実行するに当たり、株主として、消却のために本件(一)株式を被告東京ベッドに対し、譲渡するとともにその株券を交付し、以後、同被告の代表取締役として、廃棄のため右株券を保管していたものとみるのが合理的である。したがって、本件(一)株式については、既に失効手続がなされたものというべきである。

(二)  右のとおり、本件(一)株式は、昭和四三年一〇月三一日当時には既に消却されていて存在せず、他方、原告が請求原因1(一)(2)において予備的に主張する本件(二)株式六万株の取得の事実は、当事者間に争いがないから、原告は、前記1のとおり本件(二)、(四)及び(五)の各株式合計六一万株を被告フランスベッドに譲渡したものと認められる。

3. 抗弁2(二)(株券発行前の株式譲渡の効力)について

被告フランスベッドに前認定のとおり譲渡された本件各株式について、譲渡当時いずれも株券が発行されていなかったことは、当事者間に争いがないところ、被告東京ベッドは、右株式発行時から譲渡時までに、株券発行に必要な合理的期間が経過していたから、意思表示のみによる譲渡も有効であると主張する。

株式の譲渡については、株券の交付が必要とされ(商法二〇五条一項)、また、株券の発行前になされた株式譲渡は、会社に対しその効力を生じないものとされている(同法二〇四条二項)。しかしながら、商法二〇四条二項は、株式会社が株券を遅滞なく発行することを前提とし、その発行が円滑かつ正確に行われるようにするために、会社に対する関係において株券発行前の株式譲渡の効力を否定する趣旨で設けられたものであるから、会社が右規定の趣旨に反して株券の発行を不当に遅滞し、信義則に照らしても株式譲渡の効力を否定するのが相当でない状況に立ち至った場合においては、株主は、会社に対する関係においても、意思表示のみによって有効に株式を譲渡することができるものというべきである(最高裁昭和四七年一一月八日大法廷判決・民集二六巻九号一四八九頁参照)。

これを本件についてみるに、さきに二1(一)(1)で認定した被告東京ベッドの増・減資の経過によれば、被告フランスベッドに譲渡された六一万株のうち六〇万株は、遅くとも昭和三八年二月九日までに発行され、残る一万株(秀工社との合併に際して発行された株式である。)についても、昭和四三年二月二八日には発行されていることが認められるから、右各発行時から前記の譲渡がなされた同年一〇月三一日までに、六〇万株については五年半、一万株についても八か月が経過しているというべきである。したがって、右の事実関係のもとでは、六〇万株についてはいうまでもなく、一万株についても、会社が株券の発行を不当に遅滞し、信義則に照らしても意思表示による株式譲渡の効力を否定することが相当でない状況に立ち至っていたものというべきである。

4. 抗弁2(三)(被告フランスベッドのフランスベッド販売に対する株式譲渡)について

前掲乙第二九号証、証人佐原節男の証言及び弁論の全趣旨によれば、抗弁2(三)の事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。

5. 抗弁2(四)(フランスベッド販売と被告メディカルサービスの合併)について

抗弁2(四)の事実は、当事者間に争いがない。

三、再抗弁(秀工社の株券の存在)について判断する。

原告は、秀工社が被告東京ベッドに吸収合併された当時、全株式(三六〇〇株)につき株券を発行しており、その株券は、被告東京ベッドの株券が発行されるまでは、合併の際発行された同被告の本件(四)株式一万株を表章する株券として効力を有するから、本件(四)の株式を譲渡するには右株券の交付が必要であるのに、本件においてはその交付がなされていないから、右一万株の譲渡は会社に対抗することができないと主張する。

よって検討すると、原告が秀工社の株券として提出した甲第三号証の一ないし七二について、被告東京ベッドはその成立を否認するけれども、それらに秀工社の株式発行当時の税務署の印紙税納付済印(この部分の成立については弁論の全趣旨により認められる。)が押捺されていること並びに原告本人尋問の結果を総合すれば、右甲号各証は、秀工社の真正な株券と認めることができる。そして、右株券が被告フランスベッドに交付されなかったことは、当事者間に争いがない。

そこで、次に、吸収合併されて解散した秀工社の株券が、存続会社である被告東京ベッドの発行した株式一万株を表章する株券として効力を有するか否かについて判断する。

右合併に際し、秀工社の株式三六〇〇株に対して、被告東京ベッドの株式一万株が割り当てられたことは、当事者間に争いがない。このように、解散会社の株式に対し存続会社の多数の株式が割り当てられる場合には、この割当を可能にするため、解散会社において株式分割の手続をとることが必要であるところ、右手続をとるには、会社は株主に対し一定の期間内に株券を会社に提出すべき旨を公告することを要し(昭和五六年法律第七四号による改正前の商法四一六条三項、三七七条、昭和四九年法律第二一号による改正前の商法二九三条ノ四第二項)、分割の効力は、合併の登記による合併の効果が生じる時に生じるものというべきである。本件においては、前掲乙第二一号証によれば、株式譲渡前の昭和四三年二月二八日に合併の登記がなされており、この時点で合併の効果が発生していることは明らかであるから、株式分割の効力も生じているものと認めるのが相当である。そして、株式分割の効力が生じた時以後においては、提出期間内に会社に提出されなかった解散会社の株券は、もはや株券としての効力を有せず、単に存続会社に対する新株券交付請求権を表章する有価証券となるに過ぎないと解すべきである。そうとすれば、秀工社の株券(甲第三号証の一ないし七二)は、昭和四三年一〇月三一日の株式譲渡当時には既に右の提出期間を経過していたことが明らかであって、被告東京ベッドの株式一万株を表章する株券としての効力を有していなかったというべきであり、本件(四)株式は、株券の発行されていない状態にあったものというべきである。したがって、原告の再抗弁は理由がない。

四、結論

以上のとおりであるから、その余の点につき判断するまでもなく、原告は、被告フランスベッドに対し本件各株式を意思表示により有効に譲渡したものといわざるを得ない。したがって、原告の被告東京ベッドに対する本訴請求のうち、株主総会不存在確認を求める部分は原告適格を欠き不適法であり、その余の請求は理由がないことが明らかである。

第二、第二事件について

一、被告フランスベッドの本案前の主張に対する判断

被告フランスベッドは、その保有していた本件各株式六一万株を既にフランスベッド販売(現被告メディカルサービス)に譲渡しており、自己が現在右株式を保有していると主張しているわけではないから、原告は、被告フランスベッドに対する関係では確認の利益を有しないと主張する。しかし、株主権確認訴訟の被告が、当該株式につき自己の権利を主張する場合だけでなく、自己がその株式を第三者に譲渡した旨主張して、これに対する原告の権利を否認する場合も、これにより原告の権利者としての地位に危険を及ぼすおそれが現に存するというべきであるから、原告としては、被告に対し自己の権利の確認を求める利益があると解するのが相当である。そうすると、被告フランスベッドの右主張は理由がない。

二、本案の判断

1. 請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

2. 請求原因2の事実は、弁論の全趣旨により認めることができる。

3. 抗弁及び再抗弁についての判断は、それぞれ第一事件の抗弁及び再抗弁についての前示判断と同旨である。

4. 以上によれば、その余の点につき判断するまでもなく、原告の被告フランスベッド及び被告メディカルサービスに対する本訴各請求も理由がないことに帰する。

第三、参加事件について

一、請求原因につき判断するに、〈証拠〉によれば、参加人と原告との間で、昭和五九年一二月二四日、原告が被告東京ベッドの全株式六一万株たる本件各株式を代金五億円で譲り渡す旨の契約をしたこと、原告は、右株式のうち六万三六〇〇株分の株券(丙第三号証の二ないし一二七三)を参加人に交付したことが認められ、また、右株券の形状、記載内容に照らせば、丙第三号証の七四ないし一二七三は甲第一号証の一ないし七二及び甲第二号証の一ないし一一二八(第一事件請求原因一1記載の株式六万株の株券)と同一のものであり、丙第三号証の二ないし七三は甲第三号証の一ないし七二(秀工社の株券)と同一のものであることが認められる。したがって、丙第三号証の二ないし一二七三は、前記認定のとおり、いずれも真正な株券というべきである。しかしながら、原告が昭和四三年一〇月三一日に被告フランスベッドに対し本件各株式を意思表示により譲渡したこと、その譲渡が有効であることは、既に第一事件において説示したとおりである。してみると、原告は、参加人との前記契約当時、被告東京ベッドの株式を全く保有していなかったことになるから、株券の交付の有無にかかわらず、参加人が右株式を取得することは不可能であったものといわざるを得ない。なお、第一事件につき述べたとおり、丙第三号証の七四ないし一二七三の株券が表章する株式は、本件各株式には含まれていないが、昭和三八年五月一一日減資により消却されて失効手続がなされたものであり、丙第三号証の二ないし七三の株券は、昭和四三年二月二八日の秀工社と被告東京ベッドの合併が効力を生じた時点で株券としての効力を失っていたものである。

二、以上によれば、その余の点につき判断するまでもなく、参加人の原告及び被告らに対する本訴請求は理由がないことに帰する。

第四、結び

以上の次第で、原告及び参加人はいずれも被告東京ベッドの株式を有しているとは認められない。そこで、原告の本訴請求のうち、被告東京ベッドの株主総会決議不存在確認を求める部分は原告適格を有しないから不適法として却下し、原告のその余の請求及び参加人の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 加藤和夫 裁判官 坂倉充信 垣内正)

〈以下省略〉

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